2020年07月31日

自筆証書遺言書保管制度を利用してみて(3)― 遺言書とは何か@


今回遺言書を書くに先立って、保険金の受取人の指定を遺言書で行う場合について確認したいことがあって保険会社に問い合わせをしました。

遺言書で保険金受取人を指定することについては、保険法44@に「保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。」と規定されています。いわゆる「できる規定」なので、保険の契約内容や時期によっては認められない場合もあります。

その点も含め確認するためコールセンターへ電話したのですが、残念ながら、担当者は遺言書がどういったものかよく理解していないようで、私の確認したいことが(取り敢えず)伝わるのに1時間、回答を得るのに更に30分を要しました。

遺言書は遺書とは異なり、民法に規定された法律文書です。そして、遺言書の内容は遺言者の意思であり、その効力が遺言者の死によって有効になるという点に特徴があります。

簡単に言うと、遺言書に書いてあることは違法であったりしない限りはその通りに実現されるべきものです。生前に保険金受取人を指定するのと遺言書で保険金受取人を指定するのは基本的に同じことです。

ただ、遺言書が有効になった時点で遺言者は既に死亡しています。そのため、遺言書の内容が不明確であっても本人に確認できません。そのため、遺言書の記述が不明確だと、たとえ遺言者の意思であっても実現されるとは限りません。しかし、遺言書の内容が明確で、その内容が法律や契約などに違反しないものである限り、遺言書に書かれた遺言者の意思は尊重されるべきものです。

判断能力に問題のない成人が自分の財産をどのように処分するのも自由です。その自由が遺言書を通して遺言者の死後も保障されているということです。言い換えると、遺言書とは遺言者の自由が実現される最後の機会なのです。
続きを読む
posted by 涌井史明 at 21:01| Comment(0) | 遺言相続

2020年07月29日

補助金?助成金?給付金?

コロナ禍の現在、補助金、助成金、給付金という言葉を聞かない日は殆どないといっても過言ではないでしょう。でも、補助金、助成金、給付金って何が違うのでしょう?

結論から言えば、ケースバイケース。共通しているのは、国・地方公共団体が国・地方公共団体以外のものに交付するお金という点です。ただ、大まかな枠組みとしては、補助金=事業に対して助成金人に対して給付金=その他という感じはあります。

上記の区別は絶対的なものではなく、「助成金」と銘打っても事業に対して交付される例が地方公共団体に多く見られます。ただ、国レベルで言えば、厚労省=助成金その他の省庁=補助金という感じです。これは、厚労省の役割が労働者(つまり人)の保護にあるからだと思われます。

補助金の対象となる「事業」とは、事業者が行う研究開発、販路開拓などの「事業活動」のことです。つまり、新商品の開発・製造または普及に関する活動は一定のリスクを伴うので事業者が及び腰になり折角の成長のチャンスを逃さないように後押しするのが補助金です。

一方、助成金は事業者が雇用する労働者を保護するために交付されることが多く、代表的な助成金である雇用調整助成金やキャリアアップ助成金は、労働者の生活保障や労働者の成長の促進など、人である労働者に対して交付される点に特徴があります。

ただ、助成金の多くは事業者を通して間接的に交付されるので、雇用主である事業者次第で労働者に対して交付されるか否かが変わってしまう点が問題視されているのはご存知の通りです。

最後に給付金ですが、国内居住者全員に1人あたり10万円が交付された特別定額給付金は記憶に新しいところです。上記の、補助金や助成金以外で交付されるものを給付金と呼ぶようです。

そのため、持続化給付金や家賃支援給付金のように事業者に対して交付されるものであっても補助金(事業の成長促進)や助成金(人の保護育成)に該当しないものは給付金と呼ばれています。

補助金、助成金、給付金の違いをザックリとまとめてみました。これらの違いは法律に定義されているものではないので、ケースバイケースです。ただ、補助金がその時その時の社会情勢にあわせ事業者や経済の成長を促進するために交付されるのに対し、助成金は社会情勢に翻弄される労働者を保護するために交付されるという特徴はあると思います。そして、そのいずれにも当てはまらない給付金は極めて臨時的なものだと言えるかもしれません。

そのため、補助金=申請者全員がもらえるわけではない、助成金=要件を満たせば全員がもらえるという違いが生じます。

以上のように大まかな違いはありますが、国・地方公共団体から国・地方公共団体以外のものに交付される金銭で返済不要であることは共通しています。そして、不正に受給すると、返還はもちろんですが、刑事罰もあるという点も共通しています。

必要に応じて受給するのは当然のことですが、決して不正に受給しないことも当然のことです。念のため。

posted by 涌井史明 at 23:52| Comment(0) | 補助金

2020年07月27日

自筆証書遺言書保管制度を利用してみて(2)― メリット・デメリット


まずはデメリット
  1. お金と時間が掛かる
  2. 本人出頭の義務がある
  3. 遺言書を見られるのが多少恥ずかしい
手数料3,900円と手続に30〜40分の時間や、法務局へ自分で出向く手間が掛かります。

また、外形的なチェックのためとはいえ、遺言書本文や財産目録などを係の人に見られるのが多少恥ずかしくはあります。

特に、訂正箇所があると、訂正が正しく行われているか(場所、字数、署名、押印など)のチェックが入るので、結果として本文を長時間見られることになります。

しかし、以上のデメリットはメリットに比べればとても小さいことだと思います。

次にメリット
  1. 火災・天災・盗難・改ざん・紛失に強い
  2. 死亡時の通知制度を使えば遺言書の存在が分かる
  3. 検認不要なので遺言書の執行がスムーズ
  4. 遺言書を書くモチベーションが湧く
まだまだ列挙できますが、キリがないのでこれくらいにしておきます。

1の「火災・天災・盗難・改ざん・紛失に強い」は法務局という公的機関に預けることによりしっかりとガードされますし、少なくとも、対策されていない一般住宅より安全であることは間違いないでしょう。

2の「死亡時の通知制度を使えば遺言書の存在が分かる」ですが、実はこれが最大のメリットだと思っています。遺言書の王様である公正証書遺言書の最大の弱点は、遺言者の死亡時に自動的に通知してくれる仕組みがないことです。極めて強力な公正証書遺言書であっても、その存在が埋もれてしまえば意味を失います。惜しむらくは、本格運用は来年度(令和3年度)以降ということです。

3の「検認不要なので遺言書の執行がスムーズ」も、遺言書の内容によっては大きなメリットになるでしょう。密封された遺言書は家庭裁判所での検認を経ないで開封することは禁じられています。現状、検認まで2か月ほど掛かることを考えると、葬儀などに関する指示が遺言書に書かれていても実行は困難でしょう。

また、熟慮期間が3か月であることを考えると検認までの2か月は決して短い期間ではありません。もちろん、熟慮期間の延長はできますが、遺言者の死亡で慌ただしい中では何が起こるか分かりませんので余計な手続は減らしておきたいところです。

4の「遺言書を書くモチベーションが湧く」ですが、何事も締切のないことに関しては腰が重くなるものです。保管制度の利用にはあらかじめ申請の期日を予約しておく必要があります。これが一種の締切です。締切があると結構頑張れます。

その際も、法務局に預ける遺言書に全てを書く必要はない(※)ので、最低限のことを書いて預けておくのも一つの手だと思います。
 (※)この点についてには他の記事で書きます。

続きを読む
posted by 涌井史明 at 21:37| 遺言相続