2020年10月03日

自筆証書遺言書保管制度を利用してみて(4)― 遺言書とはA


今回、私の書いた遺言書は特定の個人を確定的に保険金受取人に指定したものではなく、遺言書に記した候補者の中から条件に当てはまる者が受取人になるというものです。
遺言書を書いた時点では保険金受取人が確定していない記述の仕方でも保険会社は認めるか、不明確であると拒否しないかというのが私の確認したかったことです。

そのことを何度も何度も説明しても、コールセンターの担当者は「遺言者と相続人との間の(内輪の)話なので…」みたいなことを繰り返すばかりでらちがあきませんでした。

結局、上記の保険法(保険法44@)の説明をして、遺言書で保険金受取人を指定することはできるし、遺言書は法律文書かつ遺言者の意思であって、遺言者と相続人間の内輪の話ではないことを理解してもらいました。

その上で、@私の加入している保険契約が遺言書よって保険金受取人を指定できるものであるか、A条件分岐するような保険金受取人の指定であっても保険会社が受け入れるか否かを尋ねました。

結果、@に関してはOKで、Aに関してはその時の状況もあるので現時点で確定的に返答はできないが少なくとも内容を審査せずに拒否することはないという回答を得ました。

前回も強調しましたが、遺言書は法律文書であり、遺言者の意思を記したものです。

ですから、民法891に相続人となることができない者として「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」が挙げられていますし、同時に刑法159の有印私文書偽造罪(3月以上5年以下の懲役)や、同258の私用文書等毀棄罪(5年以下の懲役)などが適用され、遺言書が法律的に保護されています。

また、裁判所で検認を受けた自筆証書遺言で預貯金の払い戻しや名義変更などができることからしても、遺言書が法律文書であり遺言者と相続人との間の内輪の話ではないことは明らかです。

なぜ保険会社のコールセンター担当者がそのことを理解していなかったのか不明ですが、遺言書の作成に際しては入念な下調べや確実な知識が欠かせないという教訓を得ました。

遺言書は遺言者の死亡によって有効になる法律文書で、遺言者の意思を実現する最後の機会なので不備があると取り返しがつきません。

その点からすると、法律のプロ中のプロである公証人に作成してもらうのが一番ですが、公正証書遺言にもデメリット(費用など)や短所(通知制度がない)もあるので、法務局における自筆証書遺言書保管制度を併用するのが良いのではないかと考えています。
posted by 涌井史明 at 01:47| Comment(0) | 遺言相続

2020年07月31日

自筆証書遺言書保管制度を利用してみて(3)― 遺言書とは何か@


今回遺言書を書くに先立って、保険金の受取人の指定を遺言書で行う場合について確認したいことがあって保険会社に問い合わせをしました。

遺言書で保険金受取人を指定することについては、保険法44@に「保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。」と規定されています。いわゆる「できる規定」なので、保険の契約内容や時期によっては認められない場合もあります。

その点も含め確認するためコールセンターへ電話したのですが、残念ながら、担当者は遺言書がどういったものかよく理解していないようで、私の確認したいことが(取り敢えず)伝わるのに1時間、回答を得るのに更に30分を要しました。

遺言書は遺書とは異なり、民法に規定された法律文書です。そして、遺言書の内容は遺言者の意思であり、その効力が遺言者の死によって有効になるという点に特徴があります。

簡単に言うと、遺言書に書いてあることは違法であったりしない限りはその通りに実現されるべきものです。生前に保険金受取人を指定するのと遺言書で保険金受取人を指定するのは基本的に同じことです。

ただ、遺言書が有効になった時点で遺言者は既に死亡しています。そのため、遺言書の内容が不明確であっても本人に確認できません。そのため、遺言書の記述が不明確だと、たとえ遺言者の意思であっても実現されるとは限りません。しかし、遺言書の内容が明確で、その内容が法律や契約などに違反しないものである限り、遺言書に書かれた遺言者の意思は尊重されるべきものです。

判断能力に問題のない成人が自分の財産をどのように処分するのも自由です。その自由が遺言書を通して遺言者の死後も保障されているということです。言い換えると、遺言書とは遺言者の自由が実現される最後の機会なのです。
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posted by 涌井史明 at 21:01| Comment(0) | 遺言相続

2020年07月27日

自筆証書遺言書保管制度を利用してみて(2)― メリット・デメリット


まずはデメリット
  1. お金と時間が掛かる
  2. 本人出頭の義務がある
  3. 遺言書を見られるのが多少恥ずかしい
手数料3,900円と手続に30〜40分の時間や、法務局へ自分で出向く手間が掛かります。

また、外形的なチェックのためとはいえ、遺言書本文や財産目録などを係の人に見られるのが多少恥ずかしくはあります。

特に、訂正箇所があると、訂正が正しく行われているか(場所、字数、署名、押印など)のチェックが入るので、結果として本文を長時間見られることになります。

しかし、以上のデメリットはメリットに比べればとても小さいことだと思います。

次にメリット
  1. 火災・天災・盗難・改ざん・紛失に強い
  2. 死亡時の通知制度を使えば遺言書の存在が分かる
  3. 検認不要なので遺言書の執行がスムーズ
  4. 遺言書を書くモチベーションが湧く
まだまだ列挙できますが、キリがないのでこれくらいにしておきます。

1の「火災・天災・盗難・改ざん・紛失に強い」は法務局という公的機関に預けることによりしっかりとガードされますし、少なくとも、対策されていない一般住宅より安全であることは間違いないでしょう。

2の「死亡時の通知制度を使えば遺言書の存在が分かる」ですが、実はこれが最大のメリットだと思っています。遺言書の王様である公正証書遺言書の最大の弱点は、遺言者の死亡時に自動的に通知してくれる仕組みがないことです。極めて強力な公正証書遺言書であっても、その存在が埋もれてしまえば意味を失います。惜しむらくは、本格運用は来年度(令和3年度)以降ということです。

3の「検認不要なので遺言書の執行がスムーズ」も、遺言書の内容によっては大きなメリットになるでしょう。密封された遺言書は家庭裁判所での検認を経ないで開封することは禁じられています。現状、検認まで2か月ほど掛かることを考えると、葬儀などに関する指示が遺言書に書かれていても実行は困難でしょう。

また、熟慮期間が3か月であることを考えると検認までの2か月は決して短い期間ではありません。もちろん、熟慮期間の延長はできますが、遺言者の死亡で慌ただしい中では何が起こるか分かりませんので余計な手続は減らしておきたいところです。

4の「遺言書を書くモチベーションが湧く」ですが、何事も締切のないことに関しては腰が重くなるものです。保管制度の利用にはあらかじめ申請の期日を予約しておく必要があります。これが一種の締切です。締切があると結構頑張れます。

その際も、法務局に預ける遺言書に全てを書く必要はない(※)ので、最低限のことを書いて預けておくのも一つの手だと思います。
 (※)この点についてには他の記事で書きます。

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posted by 涌井史明 at 21:37| 遺言相続